巻頭言

実装技術と集積技術とのギャップ

坪内 和夫


 現在、エレクトロニクス産業は、大転換期にさしかかっている。「もの」の価値と値段が大変な逆転化現象に見舞われている。よい例が、昔はそれ単体で価値が認められた携帯電話が、ただ同然でくばられ、iモードに見られるように、価値と金を得る手法は、インターネットから取り出す「情報ビット」にある。確実に、IT革命が進行しつつあり、ビジネスモデルが変化している。IT技術の中で、今後とも、猛烈なスピードで、モバイルネットワーク化は進むであろう。そのとき、最も重要な技術は、モバイル化を支える携帯のための小型化・高密度実装技術である。
 しかし、従来のSMT技術から脱却するブレークスルーが必須である。現在、SOC(System on chip)かSIP(System in package)かと云う議論があるが、最近、感じるのは、実装技術者と半導体集積技術者とのギャップである。カルチャーの差と、技術的判断の差が大きく両者の間にあり、議論が全くかみ合っていない。実装では、100?mサイズをいじり、半導体チップでは、0.1?m加工をいじっている。両者には、サイズ的に1000倍の開きがある。 従来は、チップ、パッケージ、ボードと云う違いが歴然としていた。しかし、今後この3者の境界がシームレス化すると考えられる。中間領域における1~10?m領域における加工・実装技術が必要と思われる。すると、これは一昔前の時代のIC加工製作技術レベルが実装に入ってくることになる。ただし、扱う面積は大きい。信号線を伝わるクロックもGHzオーダーとなり、RF、アナログ、デジタルの信号が混在する。個人的には、まず実装技術の中で、SIP化が進み、ワイヤレスマルチメディア用に超小型化が進み、耳の中に入ってしまう携帯電話が出現するだろう。さらに、このワンチップ携帯電話が、色々な部分に埋め込まれて、文字通り、「ワイヤレス マルチメディア」時代が到来すると考えられる。しかし、「もの」だけを作って売ると云うビジネスはたかが知れたものになってしまうに違いない。
 従って、本学会の中での新しい活動の中には、技術的ブレークスルーもさることながら、IT時代のビジネスモデルにおける「総括的」ブレークスルーが議論されなければならないと考える。そうしないと、部品と実装は日本は強いと云っていても、システム全体では負けてしまって、経済活動の価値がなくなる。
 今後の本学会の活動において、新しい転機を期待したい。

(JIEP理事,東北大学電気通信研究所 教授)
「エレクトロニクス実装学会誌(Vol.4, No.1)」巻頭言より


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